技能実習制度を廃止すべき10の理由
1.多額の債務を負って来日
技能実習生は、来日前に多額の費用を支払っています。その費用は、教育訓練費、渡航費のほか、送出し機関やブローカーへの斡旋手数料、時に関係機関への賄賂などに当てられます。その額は、ベトナムでは平均で100万円にものぼりますが、技能実習生たちは、その費用を支払うために金融機関などから借金をします。その結果、技能実習生は、監理団体や実習実施者から不当な扱いや人権侵害を受けても、声をあげられなくなってしまいます。権利主張をして、もし技能実習の途中で辞めさせられれば、多額の借金だけが残ってしまうからです。こうして、多額の来日費用は、技能実習生を債務奴隷化する装置として機能しています。
3. 意に反する強制帰国
技能実習生が職場で不当な扱いを受けるなどして、実習実施者や監理団体に対して権利主張した場合、その訴えが聞かれないばかりか、前触れもなく身体を拘束され、空港に連れて行かれ、本国に送り返されるということが起こり得ます。これを強制帰国と呼びます。実際に行われなくても、日頃の脅し文句として使われ、権利抑圧の効果を発揮します。強制帰国を実施するのは、主に監理団体や送出し機関の関係者です。実習実施者や監理団体の一方的な都合により、技能実習生が実習期間の途中でその意に反して帰国させられることは、あってはならないことです。政府も同様の見解を示し、途中帰国者の出国時には意思確認をしていますが、実効性はあまりありません。また、強制帰国を禁止する法律や罰則も設けられていません。
5. 低賃金・長時間労働・残業代時給300円
技能実習生の賃金は、外国人労働者のなかでも極めて低く、各地域の最低賃金に近い金額に張りついています。さらに、賃金未払い、早朝から深夜までの長時間労働や、残業代時給300円などの状況も確認されています。そうした背景には、実習実施者の多額の負担があります。外国人技能実習機構による調査でも、実習実施者が技能実習生一人について毎月支払う監理費は、平均して3万円ほどとなっています。このほか、技能実習のはじめに1〜2ヶ月実施される「講習」にかかる費用や帰国旅費なども、結局、実習実施者が負担することになります。他の制度にはない、こうしたさまざまな負担が、技能実習生の賃金に対する下方圧力として働いているのです。
7. 技能実習生の職場の7割に労働基準関係法令違反
厚労省は、毎年「外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」を発表していますが、対象となった実習実施者のうち7割以上に、労働基準関係法令違反が認められています。その内容は、労働時間、割増賃金不払い、賃金不払い、労働条件の明示、安全衛生関係など多岐に渡ります。また、重大・悪質な労働基準関係法令違反については、送検されるケースもあります。しかし、大きな改善には結びついていません。
9. 在留期間に上限があり必ず帰国しなければならない
技能実習生が日本で働けるのは多くは3年、最長5年で、実習が修了した後は、必ず帰国しなければなりません(条件により特定技能1号へ移行する途はありますが、特定技能1号にも通算5年という上限があります)。また、ベトナムなどでは帰国後の再就職率も低く、5年・10年かけて覚えた仕事を本国に持ち帰っても活かせる保障はありません。他方、受入れ機関や当該産業、あるいは地域社会にとっても、せっかく育てた人材を手放さなければならないことは、大きな痛手です。
2. 転職の自由がない
技能実習生は、技能習得を目的としているため、同じ実習実施者の下で実習しなければならず、原則として転職が認められません。そのため、雇用主である実習実施者への従属性は強くなっています。他方、人権侵害のほか、労使問題や対人関係等の問題があった場合には、実習先の変更が認められるとされており、第一義的には、監理団体が他の実習先を探すことになっています。しかし、監理団体は、技能実習生の事情よりも実習実施者の意向を優先させる傾向があるため、実習先の変更は容易ではありません。なお、特定の雇用主だけに固定される労働形態について、ILOは「強制労働の可能性の兆候リスト」に入れています。
4. 監理団体・送出し機関による支配
技能実習生は、来日にあたって本国で送出し機関と契約を結びます。送出し機関は、募集した技能実習生を日本側の監理団体へ斡旋します。技能実習生は、日本で働くために実習実施者である会社等と労働契約を交わしますが、日本での受入れ、実習実施者への紹介、技能実習の監理は監理団体が行います。その結果、技能実習生は、監理団体の意向に左右されやすい立場に置かれます。他方、監理団体にとって技能実習生の雇用主である実習実施者は、さまざまな手数料を含む監理費を支払ってくれる商売相手でもあります。そのため、労働問題などが起きても、監理団体は、技能実習生の権利救済や保護よりも、実習実施者の利益を優先しがちです。また、送出し機関も、技能実習生の状態を監視するため日本に駐在員を置くなどして、プライベートまで過度に介入することもあります。
6. 暴力やハラスメントから避難すると「失踪」扱い
技能実習生は、職場で深刻な暴力やハラスメント被害に遭っています。これまで支援団体には、身体的暴力のほか、精神的暴力、性暴力被害やセクシャルハラスメント、人種差別的な対応などが数多く報告されてきました。技能実習生がこうした被害から逃れるために職場を離れると、「失踪」として扱われます。また、そのまま在留期限を過ぎたり、在留資格が取り消されると、入管法違反に問われます。技能実習制度は、被害者がさらに罪に問われる状況を作り出すのです。
8. 妊娠・出産・育児の権利が認められていない
技能実習生は、単なる労働力と考えられており、日本で妊娠・出産・育児をすることが想定されていません。これまで多くの技能実習生が、望まぬ堕胎をしたり、孤立出産をしたり、その結果、死産をしたり、子どもを育てる途がないと思い生まれてきた子どもを遺棄して刑事責任を問われるなど、困難を強いられてきました。政府は、監理団体や実習実施者に対し、妊娠や出産を理由として技能実習生に不利益な取扱いをしないよう注意喚起文書を出していますが、その権利を実質的に保障する体制は整っていません。そればかりか、技能実習生から生まれた子どもには「家族滞在」が認められておらず、安定した在留資格が与えられません。法務省は、「家族滞在」を認めるためには、そのコスト負担について、社会全体のコンセンサスを得る必要があるとの見解を示しています。しかし、子どもを産むか産まないかは、政府や社会が決めることではなく、また、生まれてきた子どもには、最善の利益を享受する権利があります。
10.技能実習制度は、安価な労働力受入れのための偽装である
技能実習制度の目的は、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力」とされていますが、その実態が安価な労働力の受入れであることは、すでに皆さんが気づいていることでしょう。5年間の牡蠣むき作業を終えて、中国の内陸部に帰国するという矛盾が、この制度の実態です。福島でベトナム人技能実習生が、技能実習職種にはない除染作業に従事させられていたことも象徴的です。技能実習法(2017年施行)では、「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」とされていますが、ここまでくると空々しい文言に聞こえます。技能実習生を労働力としてのみ利用し、人間として受け入れようとしない国家的な偽装は、もうやめるべきです。
暴力被害を受けたベトナム人技能実習生の証言
来日のために貯金を崩し、100万円の借金もしました。
最初は相談せず我慢していました。もし相談したら、会社の人に嫌われ、退職・帰国せざる得なくなり、借金が返せなくなってしまうだろうと思ったからです。
原則として転職ができないということも、今回トラブルが起きてから初めて知りました。
建築の知識の習得を期待していましたが、危険な仕事や大変な力仕事は、私たち外国人技能実習生がやらされることが多かったと思います。長時間労働もひどかったです。
ベトナムで役立つようなことは学べませんでした。
(2022年2月3日 朝日新聞GLOBE+から)